産地を訪れる ─ 畳
2015年 - 大阪・堺 大江畳店
───── シュッ シュシュッ サッ シュシュ シュッ
小気味よい音が続く。手縫いのいい仕事は感覚が大切。mm単位以下の寸法は自分だけがわかる加減があるから一部屋の畳は必ず同じ職人が作る。畳は寸法だけではきれいに仕上がらないのだ。
感覚は常に使わないとダメになる。いい仕事の出番に備えて日頃からいい仕事に携わる。当たり前のようでもなかなかそうできないのがこの業界の現状だ。
古い家の畳表を取り替える。材も腕もいい。やり替えの時裏を見てわかる前の仕事の良しあし。初めの職人さんはいい仕事してたな。次の職人さんはそこまでじゃないな。今度はどのレベルに仕上げるかな。畳屋さんは家に合わせて、部屋に合わせて、材料や仕事の内容を決める。
やり替えの際、箪笥の跡やよく傷むところには手立てを施す。下地や家のほころびまでを補うように。補ったことがわからないように。仕立て直し、つつましく仕上げる。
畳の角がへたらないように板付本床を初めて見た。上等な仕事だ。機械縫いではできない時間も手間もかかる仕事。傷みに合わせてちょうどいい堅さのイ草でつづくろう。使う人は知らなくともそっと繰り返される手立ての積み重ね。数十年後のやり替えで自分が携わるかどうかわからなくとも、当然のように部屋に見合う仕事をする。
機械で出来るところは機械も上手に使う。手縫いの仕事を息子にさせる父の思い。父がいる間に仕事を覚えようとする息子の思い。時代に合わせながらいい仕事が継承される素敵な光景を見た気がした。
畳の気持ちよさを私たちの体は知っている。この先、畳に寝転ぶことが特別なことにならないよう、畳の良さを伝えていきたいと思う。