ハイアットリージェンシー京都
視線はスマートフォンの画面と舞妓さんの舞踊をいったきりたりしていた。初めて見る実物の舞妓さんを目にも記録にも納めたくて。その舞台として使って頂いた「器」は、海外の方にはどう映ったのでしょうか。
器プロジェクト@ハイアットリージェンシー京都での5日間。宿泊客の方々は、日本の観光に京都を選ばれるだけあって、日本文化への興味は深い。もしかしたら日本人より関心を持っていると思うほど。着付けにたいそう喜ぶ女性、神妙な面持ちでお抹茶を口にする男性、舞踊を見つめる表情はまさに息を呑む。ロビーの佇まいと相まって、「器」が暮らしの空間だけでなく文化の空気として受けとめられことが新鮮でした。
臨機応変に異なるシーンと表情をみせた「器」
この企画は私達にとっても初めての試みでした。メンバーは日頃作ることに徹する職人。外国の方に向けた発信は増えてきたとはいえ、お客様とじかに話す機会がそもそも少ない人たちなのです。自分の作ったものが、一つの空間におさまったとき、それがどんなふうに見えて、どのように見られるか。なかなか目の当たりにできません。使われている光景もじっくり眺められません。そんなメンバーの興味の先も私には新鮮でした。
今回は、プログラムに合わせて設えを何度も変えました。同じ場所だったにもかかわらず、趣の違いを存分に表現できました。現場の状況に合わせて、開いたり閉じたり臨機応変に異なるシーンと表情をみせた「器」は、たった3畳のたった5日間でしたが、デザインした私自身へいろいろな発見をもたらしてくれました。
手作りの素材 × 卓越した技術 × 何一つ廃棄しない = 「器」
このプロジェクトは誰かに頼まれたわけではなく、日本の文化が特別なものになったり途絶えてしまうのが惜しくて、メンバーの職人さん達に声をかけて始まった試みです。本物の木、紙、草、硝子などの素材は、どれも大量生産できない。その素材を活かす技術で作り上げて、「器」という小さな空間にしてみました。
「器」の架構を考えるにあたり、日本の技術を惜しみなく使いたいと思いました。釘を使わずパズルのように何度でも解体して、組立られて、何一つ材を廃棄しません。誇れる技術です。わずか一時間半で電気工具も使わず組み立てられる様子をご覧になった方々へ何かを伝えられたかもしれません。
もうしばらくの間、この「器」には、日本の素材や技術の真髄を伝える役割として、いろいろな場所で活躍してほしいと考えています。ヒトやモノやコトを包む「器」、まだよく見えないけれど何かが始まったのを感じる機会となりました。チャンスをいただいたホテルの皆様やご意見を伺ったお客様には心から感謝申し上げます。